新都社 文藝新都

半鬼



 満月の夜、村一番の屋敷の一室でのこと。
「――様。どうか、お帰りなさらないで」
 女が男に、静かに寄り添う。男は夜這いに来ていた。人目をしのぶ逢瀬だが、尋常の理由に加えて、ことさらに衆目を避けなければならない秘密が、二人にはある。男は鬼だった。正確には、半分は鬼で、半分は人間だった。朝は鬼で、夜は人間だった。
 朝日がのぼれば鬼の姿に戻ってしまう。その前に、目覚めた村人に見つかる前に、屋敷を離れなければならない。じきに夜が明ける。
「泣くな。お前と別れるのは、たとえわずかな間であっても、俺もつらい。だが心配するな。日が暮れれば、必ずお前に会いに行く。ほら、今までと同じだ。だから泣くな。ほんの少しの辛抱だ」
 そう言い残して男は寝室をあとにした。
 朝になり、一日が過ぎ、また夜が来た。この村の住人は、眠りにつくと自分の体が人間の体から鬼の体へと変貌することを知らない。